用語解説目次
金利スワップとは
スワップレートとは
スポットレートとは
- スポットレートの算出方法
- ディスカウントファクター
イールドカーブとは
フォワードレートの計算
スワップは「等価交換」
金利スワップとは
スワップとは日本語で「交換」を意味する。その名の通り、金利スワップでは、固定金利と変動金利を「交換」する。例えば、変動金利で返済を希望する人と、固定金利での返済を希望する人との間で、利息の支払を交換することによって双方の利払いスケジュールを調整することができる。仮に Aさんと Bさんの二人が居て、各々が期間 10年間で 1億円の借入を行い、前者が変動金利、後者が 3%の固定金利であったする。両者の間でスワップに合意した場合、毎期 Aさんの利払いを Bさんが行い、Bさんの利払いを Aさんが行う、というイメージだ。このとき、A さんは「今後の金利相場は下がる」、または「現行の水準で安定する」と見通していて、変動金利での利払いを許容・希望していると想定される。その反対の将来見通しを持っているか、または何らかの事情で金利の水準が変わる事を嫌って金利を固定したい Bさんという異なる趣向を持つプレーヤーが居ることが、スワップの成立要件でもある。長期間のプロジェクトにおいては、本来、変動金利で貸出資金を調達をせざるを得ない銀行が、固定金利で融資を受けたいという事業側のニーズに応えるべく、金利スワップ市場で金利スワップの交渉が成立すれば、自らの支払い利息も固定金利にした上で、融資先企業に対して固定金利で貸出を行う事ができます。
そもそも金利スワップはなぜ必要なのか。エネルギーやインフラプロジェクトにおいては、その事業期間に即して、15年や20年間を超えるような長期の融資が活用される。一般的に、このようなプロジェクトにおいては総事業費に占める融資の割合が大きい為、金利の変動による支払金利の増減がプロジェクトの採算に与える影響も小さくない。貸し手である銀行は銀行間市場等から調達した資金を用いて、このようなプロジェクトに対して融資を行うが、この際に調達金利と、貸出金利に逆ザヤが出てしまうと赤字になってしまう事から、銀行は調達金利の変動を貸出金利に転嫁することができる変動金利での貸し付けを嗜好する。他方、プロジェクトの事業主体にとっては上述の通り、金利水準は事業期間にわたって固定したいニーズがある。そこで上述の通り金利スワップを使う事で、「変動金利リスクを取れる誰か」を銀行が金利スワップ市場で見つけて、固定金利とスワップを行うことで、当該事業における固定金利でのファイナンスが実現する。
スワップレートとは
スワップ金利とは、変動金利と交換可能な固定金利を表す。例えば、円-円の金利交換レートについては、以下のようなウェブサイトから見る事ができる。
スポットレートとは
上述のスワップレートは、期首と期末の間に中間的なキャッシュフローがある事を想定したレートとなる。これに対し、中間キャッシュフローのないレートをスポットレートと言う。
スワップレートから満期以前の利息部分の現在価値の合計額を差し引いた投資現在価値が、満期時収益に対する割引率となる値を求めることでスポットレートを算出する事ができきる。
スポットレートの算出方法
0. スワップレートを以下の通りと仮定する
1年 :1%
2年 :2%
3年 :3%
4年 :4%
5年 :5%
今回、想定元本を100億円と仮定。このケースにおける利払いと元本返済のスケジュールは以下の通り。
1年・金利1%で借りた場合、1年後の利息は1億円と元本100億円で101億円の返済
2年・金利2%で借りた場合は1年後に2億円の利払いを行い、2年後に102億円の返済
3年・金利3%で借りた場合は、1年後・2年後に3億円の利払いを行い、3年後に103億円の返済
4年・金利4%で借りた場合は、1年後・2年後・3年後に4億円の利払いを行い、4年後に104億円の返済
5年・金利5%で借りた場合は、1年後・2年後・3年後・4年後に5億円の利払いを行い、5年後に105億円の返済
上記の想定のもと、中間の利払いがなかった場合の金利、すなわちゼロ・クーポン債の金利が算出できれば、それがスポットレートを意味する。具体的には、以下のステップで計算する。
1. まず利息部分のみの現在価値を計算する
上記の例において、1年・1%の場合は1年後に元利一括で返済するので、中間の利払いはない。次いで、B: 2年・2%の場合は、1年後に利払い2億円が発生しているので、この分を現在価値に割り引く。この時の割引率は、その時点におけるスワップレートを利用する。
つまり、以下の通りだ。
2億円÷(1+1%)^1= 1.98億円
C: 3年・3%の場合は、1年後・2年後に利払い3億円が発生しており、前者は1%、後者は2%で現在価値に割り戻す。
3億円÷(1+1%)^1=2.97億円
3億円÷(1+2%)^2=2.88億円
この要領で、D, Eの中間利払いについても現在価値を算出すると、下表の通り。
2. スポットレートを計算する
先に計算した満期以前の利息部分の現在価値の合計額を差し引いた投資現在価値が、満期時収益に対する割引率となる値を求める。
つまり、Bであれば中間利払いの現在価値1.98億円を貸出金額の100億円から差し引いた98.02億円が、2年後の満期時に償還される102億円に対する投資現在価値となるような割引率を算出する。計算式では次の通り。
98.2億円=102億円÷ (1+ スポットレート2)^2
これを解くとスポットレート2は2.01%となる。
Eであれば、100億円-18.59億円=81.41億円が初期投資、満期時償還価額が105億円なので、これが等価でつながる現在価値を求める数式は以下の通り。
81.41億円=105億円÷ (1+ スポットレート)^5
これを解くとスポットレート5は5.22%となる。
スポットレートが金融商品の現在価値計算の基礎になる。スポットレートから後述するディスカウントファクターやインプライドフォワードレート等が算出され、市場リスクの計測・把握に活用される。
ディスカウントファクター
ディスカウントファクターはスポットレートから導き出される現在価値換算の掛け目率である。
期中利息(クーポン)0%の割引債の理論価額と同じです。図解が分かりやすいので日銀資料を以下に引用する。
上述の事例から、ディスカウントファクターを算出すると以下の通りとなる。
Year 2 ディスカウントファクター(DF2) = 1 / (1 + 2.01%)^2 = 0.961
その他の年も同様に算出すると下表の通り。
ここまで計算ができれば、現在のイールドカーブのもと、将来時点における金利を計算することができる。これをフォワードレートと言う。
イールドカーブ
通常、返済期間が長い方が、金利も高くなる。それは、期間が長い方が返済の不確実性、つまりリスクが高いので、その分 プレミアムも高くなるという考え方による。金利市場において、このように長期金利の方が短期金利よりも高くなっている状況のことを順イールドと呼ぶ。何らかの要因により、設備投資等の長期の資金需要が減退すると、需要と供給の原理から長期金利が下がり、短期金利と長期金利の高低が逆転する事があり、その状況を逆イールドと呼ぶ。
フォワードレート
市場取引にアービトラージが働くことを前提にすると、現時点のスポットレートから、将来の金利の予測値を計算する事ができる。説明が分かりやすいので日銀の資料を引用する。
例えば、今時点からみた2年金利がr2である場合、今時点からみた1年金利がr1だとすると、1年後からみた1年金利 1Fr1は、r1に1年分のr1を掛けた将来価値であり、同時に今時点からみたr2の2年後の将来価値に等しくなる。
これを計算式で分かりやすく表しているのが以下の日銀資料になるので、引用する。
例えば、2年後の2年金利を求めるには以下の式になる。
(1+0.02)^2(1+2R2)=(1+0.04)^4
これをExcelのPower関数で解くと(=POWER(1.04^4/1.02^2,1/2)-1)、6.04%となる。
スワップは「等価交換」
スワップのプライシングとは、現在価値が等価となる交換レートを導き出す行為である。
つまり、【固定金利のCFの現在価値の合計=変動金利のCFの現在価値の合計】となるように以下の手順で固定金利のレートを算出する。以下に三菱UFJ信託銀行のウェブサイトよりスワップのプライシングのステップを説明した箇所を引用する。
(1)ディスカウントファクター(DF)の計算
1.期間対応スワップレートからゼロクーポンレートを計算します。
2.ゼロクーポンレートを基準にDFを算出します。
(2)固定金利サイドのCFの現在価値の計算
3.CFを計算します。
=(想定元本)×(固定金利)×(実日数) =固定金利サイドのCF
4.CFを現在価値に引き直します。
=(固定金利サイドのCF)×(DF)…(A)
(3)変動金利サイドのCFの現在価値の計算
5.(インプライド)フォワードレートを計算します。
6.各期間のCFを計算します。
=(想定元本)×(フォワードレート)×(実日数)
7.CFを現在価値に引き直します。
=(変動金利サイドのCF)×(DF)…(B)
(4)変動金利サイドと固定金利サイドの各CFの現在価値合計額を算出
固定金利サイドCFの現在価値(P.V)の合計 =(A)の合計
変動金利サイドCFの現在価値(P.V)の合計=(B)の合計
(A)=(B)となるよう、固定金利のレートが決定されます
冒頭に書いた通り、スワップ市場において売り手と買い手の Ask(このレートで買えないか?)とBid(このレートで買いたい)の中で均衡点にレートは収斂するが、銀行から民間企業にオファーされる時点において、「サヤ」が乗った形でオファーされる。尚、スワップはトップシニアであり、シニアローンよりも返済順位が高いので、銀行にとっても旨味のある商品だ。スワップ市場に参加しているプレーヤーは、メガバンクや一部地銀等、いわば力のあるプロであり、オファーを受ける側の民間企業としてはスワップ金利を理論的に計算できる力がないと、プロに騙されて余計なサヤを載せられてしまいかねない。