コベナンツ条項 (Covenants Clause) とは

May 22, 2022
Finance
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用語解説目次

コベナンツ条項 (Covenants Clause) とは

  • コベナンツ条項の定義
  • コベナンツ条項が必要となる理由

コベナンツ条項の種類

  • アファーマティブコベナンツ (義務)
  • ネガティブコベナンツ (制限・禁止)

コベナンツ条項の具体例

  • 報告・開示義務条項
  • パリパス条項
  • 事業維持条項
  • 財務制限条項
  • 反社会的行為禁止条項等

プロジェクトファイナンスにおけるコベナンツ事例

  • アファーマティブコベナンツ
  • ネガティブコベナンツ

LBOファイナンスにおけるコベナンツ事例

  • アファーマティブコベナンツ
  • ネガティブコベナンツ
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コベナンツ条項 (Covenants Clause) とは

コベナンツ条項の定義

コベナンツ条項とは、金融機関が企業に対して貸出を行う際に締結するローン契約上、あるいは、社債市場において社債を発行する際の社債発行要領上で規定される、債務者(借入人)の義務を指す。例えば、重要事項の事前申請や報告、対象企業の財産状態に関する調査への協力、財務指標の一定値以上/以下の維持等が挙げられる。コベナンツは借り手が当初の計画とあまりに乖離した資金の使い方をしないよう、また過剰にリスクを取った事業運営を行わないよう、資金の貸し手(銀行等)が借り手(事業会社等)に課す義務や制限を規定した契約書条項のことだと考えて良い。

 

コベナンツ条項が必要となる理由

従来、伝統的な融資において活用される銀行取引約定書においても、借入人の報告義務、貸出人による調査への協力義務等は規定されていた。しかし、メインバンク制が機能した時代の伝統的な融資においては、金融機関と借入人との間に経常的な取引関係があり、万が一の場合には担保から回収を図ることを主に想定しているため、銀行取引約定書におけるこれらの規定は、金融機関側、企業側ともにほとんど意識されることはない状況だった。また、通常の融資ではそこまで融資金額の使途や事業運営について、厳密な義務や制限を契約書上規定することはなかったと言える。

一方、バブル経済崩壊後、メインバンク制が崩れ、融資においても、担保ではなくキャッシュフローが重視されるようになり、シンジケートローンやプロジェクトファイナンスといった手法が登場してくるようになった。このようなファイナンス手法においては、金融機関と企業の間に経常的な取引関係がなく無担保の場合や、会社の信用が存在しない場合も多い。そのため、金融機関にとって、債権保全のためには、融資期間中、常に情報を収集して借入人の財産状況をモニタリングし、財産状況に影響を及ぼす予兆がある場合は必要な措置を即時打てるようにする必要が出てくる。つまり、担保や会社としての信頼関係がない中で、貸付金を安全に回収する必要が生じてくるのだ。このような経済状況や金融環境の変化を背景とし、融資契約においてコベナンツ条項が重要な位置づけを占めるようになったのである。 

コベナンツ条項の種類

アファーマティブコベナンツ (義務)

作為義務(すべきこと)であり、借入人が融資契約期間中に行うべき事項(義務)を規定したものである。具体的には、定期的な財務情報の開示、重要事項の事前申請及び事後報告、格付の維持、事業資産の維持等が挙げられる。

 

ネガティブコベナンツ (制限・禁止)

不作為義務(してはならないこと)であり、借入人が融資契約期間中に行ってはならない事項(制限・禁止)を規定したものである。具体的には、事業内容変更の制限・禁止、担保提供の禁止、事業譲渡・組織変更の禁止、重要な資産処分の禁止等が挙げられる。

 コベナンツ条項の具体例 

 一般的なコベナンツ条項の事例として、JSRA「タームローン契約雛型」(*1) 、大垣 (2010) (*2) を参考に、コーポレート型シンジケートローンにおけるコベナンツ条項の標準的な内容を以下に整理する。

アファーマティブコベナンツ

報告・開示義務

  • 期限の利益喪失事由の発生またはそのおそれ
  • 会計基準に照らして正確かつ適法に作成された財務諸表その他開示文書
  • 借入人とその子会社・関連会社の財産・経営・業況について重大な変化が発生した場合あるいは発生するおそれがある場合
  • 短期または長期債務格付の変更
  • 表明・保証違反の報告
  • 貸付債権に対する差押え・仮差押え等の報告
  • 借入人とその子会社・関連会社の財産・経営・業況に関する報告や調査に対する便益の提供

パリパス条項

  • 当該債務の支払について他の無担保債務の支払に劣後させることなく、少なくとも同順位で取り扱うこと

事業維持

  • 事業許可の維持・事業継続

財務制限

  • 純資産の維持
  • 格付の維持

ネガティブコベナンツ

担保提供禁止

  • 対第三者、対シンジケートローン貸付人の一部

事業維持

  • 事業内容変更の禁止
  • 組織変更、合併、会社分割、株式交換・株式移転、資産譲渡の禁止
  • 重要な資産処分の禁止

反社会的行為禁止

  • 反社会的行為(暴力的な要求行為、法的な責任を越えた不当な要求行為)の禁止

プロジェクトファイナンスにおけるコベナンツ事例

プロジェクトファイナンスは、元利払いの原資及び担保を原則として当該プロジェクトから生み出されるキャッシュフローと当該プロジェクトの資産に限定するファイナンス手法であるため、プロジェクトの円滑な運営を確保し、プロジェクトキャッシュフローに悪影響を及ぼす事象を防止することが必須となる。そのため、コベナンツファイナンスといわれるほど詳細なコベナンツが規定されることが多い。

アファーマティブコベナンツ

報告・開示義務

  • 事業計画 (キャッシュフローモデル) の作成及び変更内容に関する事前申請
  • 操業実績報告
  • 財務コベナンツ計算結果報告

事業維持

  • プロジェクト関連契約(オフテイク契約、EPC 契約、O&M 契約等)の締結・維持・遵守
  • 許認可等の取得・維持・遵守

担保権設定

  • プロジェクト担保に対する第1順位担保権の設定・対抗要件の具備

財務制限条項(財務コベナンツ)

  • DSCR の値を一定以上に維持

プロジェクトキャッシュフロー管理

  • 規定されたキャッシュフロー充当順位に基づく支払
  • プロジェクト関連口座の残高維持

ネガティブコベナンツ

事業維持

  • プロジェクト関連契約の変更・解除の禁止
  • プロジェクト資産の処分・新規購入の禁止
  • プロジェクトに関連しない業務の禁止

プロジェクト関連口座

  • プロジェクト関連口座以外の預金口座の開設禁止
  • プロジェクト関連口座の解約禁止

配当

  • 一定の条件(所定の DSCR 、D/E レシオ等)を充足しない限り、スポンサーへの配当を禁止
(*3) 西村あさひ(2017)を参考に作成

 

LBOファイナンスにおけるコベナンツ事例

 LBOファイナンスは、バイアウトファンド等が対象企業の過半数以上の支配権を取得するため活用するファイナンス手法だが、ファンドのリターン最大化のため、1)負債比率が高い(エクイティクッションが小さい)、2)ノンリコースローン等の特徴から、借入人がリスクの高い行動を取り業況悪化のリスクが顕在化する、あるいは、債務超過に陥ることがないよう、借入人の投資活動を詳細に制限・監視する必要がある。そのため、ローン契約においては、借入人の投資を制限・監視する目的で詳細なコベナンツ条項が設定されることになる。

アファーマティブコベナンツ

報告・開示義務

  • 事業計画、投資計画
  • 財務コベナンツ計算結果報告

貸付実行後に予定される行為の遵守

  • 買収対価の支払完了・公開買付の決済完了
  • 既存借入金の完済・既存借入枠の解消

財務制限条項 (財務コベナンツ)

  • レバレッジ・レシオ (有利子負債 / EBITDA) の値を一定以下に維持
  • DSCR の値を一定以上に維持
  • 最低純資産額を一定以上に維持
  • 営業利益・経常利益・当期利益の赤字禁止

ネガティブコベナンツ

スポンサーへの優先資金流入の制限・禁止

  • 配当制限・自己株取得制限
  • 役員報酬・賞与制限
  • スポンサーに対するサービスフィーの支払制限

同順位債権者の禁止

  • 金融債務、リース債務、割賦債務、オフバランス債務等の負担制限
  • デリバティブ取引制限
  • 保証・担保提供の制限
  • 社債発行制限

投資等の制限・禁止

  • 設備投資・M&A・その他投融資等の制限・禁止

キャッシュフロー管理

  • 関係会社取引制限
  • 預金口座開設制限

事業維持

  • 重要な変更(定款変更、組織再編、減資等)の禁止
  • 株式公開制限
  • 主たる事業の変更や解散の制限
  • 重要契約や支払条件の変更制限
  • 特定期間における責任者の関与継続(キーマン条項)
(*4) 大久保他(2018)を参考に作成

(出典)
*1) JSRA(日本ローン債権市場協会) JSRA推奨のタームローン契約
  https://www.jsla.org/ud0200.php?select_label=%EF%BC%91%EF%BC%8E%E5%A5%91%E7%B4%84%E6%9B%B8
*2) 大垣尚司「金融と法」有斐閣 (2010)
*3) 西村あさひ法律事務所編「ファイナンス法大全(全訂版)」商事法務(2017)
*4) 大久保涼編「買収ファイナンスの法務(第2版)」中央経済社(2018)
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