用語解説目次
アレンジメントフィーとは
- シンジケートローンとは
- アレンジャー (幹事金融機関)とは
- アレンジメントフィーとは
- 参加手数料とは
アレンジメントフィーの会計処理方針
アレンジメントフィーと参加手数料の関係
- シンジケートローンにおける参加手数料とは
- シンジケートローンにおけるプレシピアム (Praecipium) とは
- シンジケートローンにおけるオール・イン・イールド (All in Yield) とは
アレンジメントフィーとは
シンジケートローンとは
シンジケートローンとは、大規模なプロジェクトを行う事業者の大口の資金調達ニーズに対して複数の金融機関が協調してシンジケート団を結成し、一つの融資契約に基づいて同一条件で融資を行う資金調達手法である。シンジケートを組む金融機関側のメリットとしては、協調して融資することによって1行あたりの融資額が少なくなり、リスクを減らすことができる点や手数料収入を得られる点がある。一方、借入人側のメリットとして (1) 複数の金融機関から同時に融資を受けるため、大規模な資金調達が可能になる上、(2) 複数の金融機関からの融資でありながら複数の金融機関と個別に協議する必要がなくない点が挙げられる。
アレンジャー (幹事金融機関)とは
通常、アレンジを行う者という意味で「アレンジャー」の役目を担う金融機関が代表として、プロジェクトのスポンサー (借入人)とシンジケート団との間に立ち、参加金融機関の募集(案件の概要をまとめたInformation Memorandumの作成・配布・説明等)、貸出条件の設定や交渉、契約書の作成及び調印式のアレンジ等条件や契約の履行管理などの調整を担当する。借入人からローンの組成を依頼 (マンデートを付与) された取り纏め役の銀行の事を「主幹事」や「メイン・リード・アレンジャー (Main Lead Arranger)」と呼ぶ。
アレンジメントフィーとは
アレンジメントフィーとは、アレンジャーが行う業務に係る手数料であり、融資の契約に際して借入人から銀行に対して支払われる。アレンジャー銀行に対してのみ支払われる手数料なので、融資契約とは別で借入人とアレンジャー銀行で交渉・合意する事も多い。似た言葉にアップフロントフィーという名前の手数料もあり、これは融資の対価として融資銀行に支払われるもので、融資金額や貸付枠の一定割合の金額とし、融資実行日等に支払われる事が多い。より詳細には、ファイナンスストラクチャーの構築、ストラクチャーに関する助言、事業計画に対する助言や金融機関の招聘、メザニン投資家の招聘など、融資契約が締結されるまでに貸出人が行う役務に対する対価である。
参加手数料とは
案件にもよるが、当該融資についてMLは、融資参加の金融機関の招聘正否に関わらず、MLAは融資をコミットする (融資額を引受ける (Underwriting) ともいう)。尚、MLAは借入人から受領するアレンジメントフィーの中から、参加金融機関に対して参加手数料を負担して、シンジケート団に参加する金融機関を募集する (詳細は後述する)。
アレンジメントフィーの会計処理における留意事項
アレンジメントフィーは、融資のアレンジメントへの対価であり、借入開始時点で役務提供を受けているので、税務的には原則として融資契約の締結時点で費用計上の上、損金とされて然るべきである (*1)。実務上は、長期前払費用に資産計上の上、融資返済期間に渡って償却する事もある。他方、コミットメントフィーやエージェントフィーは、貸付枠を用意しておくことや継続して行うエージェント業務に対する対価であるため、税務上も融資期間に延べて費用計上をしていく。尚、これら手数料は財務活動に関わる費用なので、営業外費用に計上する。
シンジケートローンにおける参加手数料とアレンジメントフィー
シンジケートローンにおける参加手数料とは
プロジェクトスポンサーおよびプロジェクト会社、すなわち借入人は、銀行(団)に対して融資のアレンジメントフィーを融資額の何%という形で融資実行時に支払う。借入人と銀行が相対で契約する場合は、それで終了だが、複数の銀行により協調して融資が行われるシンジケートローンにおいては、MLAは融資参加銀行に対して参加手数料を支払う。アレンジメントフィーから、この参加手数料の支払を控除した部分がMLAにとってのアレンジメントフィーの取り分となる。参加手数料の相場感については、コミット額 (Commitment Amount) により、ステータスと手数料率に差をつけることが一般的だ。ステータスとは、アレンジャー、シニア・マネージャーなどのことを言う。総額300億円のプロジェクトファイナンスで、MLAに対して1.5%のアレンジメントフィーが支払われると仮定する。また、下表にてリード・アレンジャー以下のコミット額と手数料の例を挙げる。以下の例は、入道正久氏の著書「キャッシュフロー・ファイナンス」を参考に作成した。(*2)
考察:Bpとは
bpとは、basis point (ベーシスポイント)の略で、1bpは0.01%。手数料や金利を表示する際に使用する。
本シンジケートローンには、シニア・マネージャーが合計2行参加し、合計60億円をコミットする。また、マネージャーは3行参加し、合計60億円をコミットする。このとき、各参加銀行が得る手数料は下記の通りとなる。
- アレンジャー:50億円×0.75% = 3,750万円
- 共同アレンジャー:40億円×0.50% = 2,000万円
- シニア・マネージャー:60億円×0.375% = 0.225億円 (2,250万円)
- マネージャー:60億円×0.25% = 0.150億円 (1,500万円)
合計 9,500万円
シンジケートローンにおけるプレシピアム (Praecipium) とは
アレンジメントフィーの総額は300億円×1.5% = 4.5億円 であるので、MLAの取り分としては4.5億円―0.95億円で3.55億円となる。尚、MLAの融資金額は300億円-50億円-40億円-60億円-60億円=90億円となる。従って、融資金額に対する手数料率を計算すると、3.55億円÷90億円=3.94%となり、他の参加銀行と比べて圧倒的に多い事が分かる。 アレンジメントフィーの料率1.5%と上記のMLAの実質的な手数料取り分の3.94%の差分である2.44%をプレシピアム (Praecipium)という。銀行 の目線でみたとき、このプレシピアムを確保できる事が、融資コミット総額=リスク・エクスポージャーを減らしつつ、相対的に高いリターンを得られる点ので、シンジケートローンをアレンジするMLAの妙味と言える。
シンジケートローンにおけるオール・イン・イールド (All in Yield) とは
また、銀行にとっての融資の収益率を示す言葉にオール・イン・イールド (All in Yield) という言葉があり、適用金利とベースレートの差額 (マージン)に受取手数料を加えた収益の総額と融資期間を加味した率を示す。例えば本プロジェクトファイナンスのマージンが1% (100bp)、融資の平均残存期間を8年と仮定する。このときMLAのオール・イン・イールドは1% + 3.94%/8年=1.49%となる。この例に基づき、参加銀行のオール・イン・イールドを下表にて試算する。尚、これら例では単純化のため、他に手数料が発生していない事と仮定する。
この例からも分かるように、出来上がった融資に参加する参加銀行と、融資を作り上げるMLAとの間では収益率にも大きな差がつくので、銀行にとってもMLAを取りに行く事はメリットが大きい事が分かる。
出典)
(*1) EY新日本監査法人 ファイナンスに関連する会計処理と開示 2015年5月27日
https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/accounting-practice/2015-05-27.html
(*2) 入道正久 「キャッシュフロー・ファイナンス」出版社: 金融財政事情研究会 (2011年3月)