講座目次
MBAへ行く意味
- モラトリアム系
- キャリアチェンジ or キャリアアップ系
- 起業系
- その他
なぜMBAを取得したか
- モラトリアム 2 割
- 起業 7 割
- その他 1 割 - Computer Science
MBAのコストは回収できるのか
- モラトリアム系
- キャリアチェンジ or キャリアアップ系
- 起業系
- その他
MBAの本質的な価値
- 知識や卒業後のサラリーは本質的な価値ではない
- ネットワークが意味するもの
- まとめ
MBAへ行く意味
日本人に MBA は必要なのか。MBA のコストは割に合うものだろうか?もう何年も前から色々なところで議論されているトピックだと思うのだが、人口の中で実際に行った人がそこまで多い訳ではなく、MBA に興味を持っている人も決して少なくはないようだ。筆者も初めて会った人から、自己紹介がてら「MBA はどうでしたか?」なんて聞かれることも多い。MBA のブログサイトやキャリア関連のサイトなどで色々な意見をみかけるものの、結論ありきの極端な議論や、極めて個人的な「MBA の感想」といった経験談に留まってしまい、全体を俯瞰した議論はあまり見かけないように思える。そこで今回は、自分の経験をベースにしつつも、できるだけ全体を捉えた議論をしたいと思う。
まず、MBA へ行く意味があるかどうか、という問いに答えるには、個々人の MBA の目的を知る必要がある。例えばあなたが料理人になるために MBA を考えているなら、個人的にはあまりオススメしない。考えてみれば当たり前のことだが、MBA に行く意味があるかどうかは個々人の動機次第だ。ただし、MBA の動機については当然 1 人 1 人微妙に違うものの、筆者の独断と偏見によれば日本人の MBA への動機は大まかに 4 つに以下の大別できると考える。まずMBA出願者をグループに大別した上で、それぞれのグループにとって MBA はどれほどの価値があるのか、考察していきたいと思う。
- モラトリアム系
- キャリアチェンジ or キャリアアップ系
- 起業系
- その他
モラトリアム系
まず日本人 MBA ホルダーに一番多いのが MBA の期間を一種のモラトリアムと考える人達だ。「MBA は人生で最大の夏休み」という格言が示す通り、モラトリアム系の人たちは MBA の期間中にそもそも自分が人生で何をやりたいかゆっくり考え直したり、家族との時間を大切にしたり、趣味(主にゴルフ)に没頭したりする。海外 MBA 出願者の中には、海外での長期にわたる勤務経験や留学経験がなく「何となく海外に住んでみたい勢」もこのモラトリアム系に含まれる。企業派遣での MBA 出願者に多いタイプで、年代としては 30 代前半から中盤の男性が多い。
ちなみに筆者の知り合いでは、米国内でビールを自家醸造している友人も居た。米国内ではビールの自家醸造は完全に合法で、手軽なキットが販売されているそうだ。これもモラトリアム MBA ならではの Priceless な人生経験だと思う。
キャリアチェンジ or キャリアアップ系
次に多いのが、MBA を通じてキャリアチェンジを図りたい、または単純にベースサラリーを上げたいという動機の人達だ。日本人 MBA に限って言うと、企業内での上位ポジションへ就くために MBA が必須となっている文化はあまりないように思えるため、キャリアチェンジが多い気がしている。典型的なケースは、大企業に入ったものの年功序列やいわゆる日本の大企業カルチャーに嫌気がさして、コンサルや金融業界(主に投資銀行)を目指すパターン。または元々コンサルや金融業界で働いていて、業界的にやや上位の会社やポジションへ転職したいと考えているパターン。元々転職を前提としているので私費の人も多く、年代としては 20 代の後半から 30 代前半の人が多い印象。
起業系
筆者もどちらかというとこのグループに属するのだが、MBA を起業機会と捉える人達がいる。大事なことは「起業の準備として MBA を取得する」のではなく、「起業を目的としてMBA に在籍する」という点だ。学生前半のグループは実際はモラトリアム系であるため、在籍中や卒業後に起業することはなく就職するケースが多い。なぜ在学中に起業をするかと言うと、人生のどこかで起業をしようと考えているが、いきなり退職するのはリスクが高いと考え、学生の身分として実験的に起業する、という考え方だ。筆者が在籍した海外 MBA の同級生達の中にも、米国籍・留生含め在学中に起業しているグループがいくつか存在し、筆者を含めて在学中から実験的にスタートアップへ参画したり、起業していた人数は200人中10人以上居た印象だ。
ただ、筆者の周りを見ると在学中に起業するケースの人達は、家族が資産家であるケースが多かった。卒業後に西海岸で起業した韓国人の友人は両親の会社から 1 億円ぐらい出資してもらったと聞いているし、ユダヤ系米国人の同級生にドライブに乗せてもらったところ、車 (BMW) は祖父に買ってもらったと言っていた。基本的に MBA は借金をしてくる入学し転職後のベースアップした給与で返済する人が多いので、起業を現実的に検討できるのはある程度経済的余裕がないとそもそも難しいという事情がある。そう考えると、筆者のように借金まみれの貧民が MBA を経て起業する、という例は珍しいのかもしれない。
その他
あとは本当に人それぞれだ。旦那が米国に赴任になったものの、いきなり現地で転職活動するのはハードルが高いためまずは MBA に在籍する、なんてパワフルな奥様もいれば、純粋に経営学に対する興味、学問に対する好奇心から MBA を志す勉強家の方もいると思う。日本人 MBA ではないが、旦那・妻の勤務先が変わり、現地へついていくために近くの MBA へ Apply した、という人達は同級生の中に一定数居た。そういう意味でキャリアに穴を空けることなく、何か特定のやりたいことがある場合に、MBA に在籍するという考え方をしている人達が多い気がしている。年代は 30 代中盤から 30 代後半の人が多く、やや年上なイメージ。
なぜMBAを取得したか
モラトリアム 2 割
筆者の動機を上記のグループで表すと、モラトリアム 2 割、起業 7 割、その他 1 割といったところだ。MBA 前の筆者の経歴を簡単にまとめると、大学の学部を卒業した後、証券会社に入社してリサーチ業務を 2 年程行い、コンサル会社へ転職をして 3 年半勤務の後、MBA へ入学した。そういう意味では出願当時はキャリアアップ、キャリアチェンジ系に多い典型的なコンサル出身の 20 代後半男性といったプロフィールだ。コンサル会社では上司がイギリス人だったため、日常的に英語を使っていたものの、海外で働いた経験や留学経験はなかった。もともと学部から海外の大学へ留学を希望していたという事情もあり、「海外に住みたい」というモラトリアムに近い気持ちは間違いなくあったように思える。ただし、動機全体の割合としては 2 割程度だ。
起業 7 割
自分にとっての MBA の大半は「起業」と「その後の保険」という二言に尽きる。まず筆者は幼い事から、自分はいつか起業をするという確信に近い目標があった。特にインターネットの黎明期に思春期を過ごしたこともあって、シリコンバレーに対する憧れもあり、米国西海岸で起業するにはどうすれば良いかということを学部時代から考えていた。今思えば、勇気と信念さえあれば起業自体は誰でもできるのだが。起業のアイデアについてはコンサル時代にある程度固まっていたものの、福山太郎さんや内藤聡さんのように直接現地に飛び込む勇気(と実力)がなかったため、ビザの戦略的にも西海岸のスクールへ留学をして、ネットワークを築きながら学生の身分で起業するのが当時は現実的に思えた。
また、MBA の良いところは、在学中に起業に失敗しても MBA を卒業するタイミングで普通に就職するというオプションがある点だ。筆者はどちらかというと石橋を叩いて渡るタイプの性格であるため、MBA の留学前に米国証券アナリスト資格 (CFA) まで取得してしまった。起業するには Safety Plan を用意すべきという考え方は今でも変わっていないが、多少やり過ぎだった可能性はある。
その他 1 割 - Computer Science
もともとコンピューターが好きだったこともあり、Computer Science を学びたかったという思いもある。そういう意味で MBA ではなくComputer Science の Master に行くという選択肢もなくはなかったのだが、実務経験がない上に GPA が壊滅的 (<3.0) であったため現実的ではないと判断。ただし、学校によっては Computer Science の授業を MBA の単位として認めてくれる学校もあり、Top Engineering School の MBA を狙う、という結論になった。そういう意味で Stanford か UC Berkeley がベストな選択肢ではあったのだが、筆者のレジュメや成績では門前払いだった。結果的にCarnegie Mellon University という Computer Science の分野で全米トップの大学に入ることができたのだが、これは運が良かっただけだ。CMU の本拠地は Pittsburgh という米国東側の小さな街にあるのだが、CMU はシリコンバレー内にもキャンパスがあった。筆者は当初の目標通り、Pittsburgh で必要な単位を早めに取得した上で 2 年生の後半から勝手に西海岸 (Sunnyvale) へ引っ越し、向こうのキャンパスで授業を受け、エンジニアとのネットワーキングに時間を割くことができた。
MBAのコストは回収できるのか
モラトリアム系
モラトリアム系の人達にとって、この問いはあまり意味のないようにも思える。なぜなら彼・彼女達は人生経験の 1 つとして MBA という体験を購入しているのであり、キャリア上の投資やコストという感覚があまりないからだ。企業派遣で来ている人も多いので、将来的に転職して自分で MBA 費用を負担する可能性はあっても、MBA 在学前からそういうことを考えて来ている訳ではないように感じる。また、キャリアに穴を空けることなく、人生のことを見つめなおす時間や、家族と共にゆっくり過ごす時間を取ることは簡単ではないため、そういう意味で MBA での生活そのものが Priceless だと感じられる方も多い。
モラトリアム系の人が MBA の同級生に刺激されてキャリアチェンジへと目的が変化するケースもあるが、MBA は入学前から座談会・壮行会などという名目で採用活動が始まっているので、途中から参加すると少しスタートダッシュが遅くなる傾向にある。また、企業派遣のポリシーとしてサマーインターンに参加できないなどの制約があるケースもあり、どうしても活動自体に「なんちゃって感」が出てしまう。結果的に筆者の友人ではうまくいっている人は多くなかった。自分探しのMBA なら転職活動もモラトリアムの一環だと割り切って行う分には良いのかもしれないが、あわよくば良い所に就職できれば良い、というモチベーションだとあまりうまくいかないので、オススメしない。
では、企業派遣ではなく私費での入学であればどうだろうか。私費での入学の場合、基本的には学費を全て自分で賄う必要があるし、Priceless な体験とは言え、無収入の状態であまりに高いコストが発生するのは良くない。費用を見ても、MBA と言っても国内 MBA と海外 MBA で学費や生活費が倍の規模で違う。そのため筆者の意見は、もし海外に行きたいという欲求がないのであれば、海外 MBA ではなく国内 MBA を選択すべきだと思う。仮に国内 MBA の授業料を 2 年間で 300 万円程度、生活費が 700 万円だとすると、約 1,000 万円の費用がかかる。海外 MBAの授業料は 2 年間で1,200 万円程度、生活費は 800 万円程度だとすると、約 2,000万円のコストがかかる。つまり海外留学と国内通学で1,000万円近い差があることになり、海外オプションとして1,000 万円の費用が発生する。もしモラトリアムだけを必要としていて、特に海外で働きたい・住みたいといった動機がないのであれば、海外留学はパフォーマンスに劣ると感じる。
筆者結論:
- 企業派遣がベスト。低コストで Priceless な体験が可
- 「なんちゃって転職活動」に巻き込まれず、モラトリアムを貫く覚悟が必要
- 私費の場合、海外要素が要らないなら国内 MBA を選択すべき
キャリアチェンジ or キャリアアップ系
まず、キャリアアップという観点で言うと、一言で言って企業派遣でなければオススメしない。日本においては、同業種内での転職や、社内の昇進に関して MBA を持っていることが有効になるケースは未だ少ないように思える。そのため MBA を持っているよりは、単にそのポジションでの実務経験が長い方が評価されやすいという印象だ。例えば、製造業 A 社から MBA を取得して A 社で昇進、または製造業 B 社の管理職に転職しようと考えているなら、恐らく A 社で勤続して実績を残した方が早いと思う。
キャリアチェンジの観点で言うと、MBA は卒業すると MBA 新卒としてのポジションへ応募することができるため、MBA ホルダーの転職マーケットに入ることができる。MBA 卒業時の経済環境によるものの、昨今ではマーケットの環境が良く、様々な業界で人出不足が叫ばれていることもあり、人材流動性の高い金融業界やコンサル業界への転職は難しくないと思う。ただし、年齢が若い場合は MBA がなくとも第二新卒でジュニアのポジションなどへ応募ができるため、単に転職を希望している場合は、まずは普通に応募してみると良い。
Goldman Sachs や McKinseyといったトップファームへ入りたいのであれば、MBA 以上にネットワークが必要となるため、知人友人を介して社員の人達と会って話すことの方が重要だ。そのため、筆者の意見としては、①第二新卒などのジュニアポジションの場合まずは普通に応募、②特定の企業やポジションを調べて知人友人などのネットワーク経由で会って話を聞く、③それでもダメならMBA、という順番で転職活動を行うべきだ。勤務地を海外にすべく海外 MBA を目指すならともかく、単純に国内での転職を目的とするなら MBA のコスパはあまり良くないというのが筆者の意見だ。
筆者結論:
- 単なるキャリアアップの場合、日本では MBA 不要
- キャリアチェンジの場合、若手の場合は普通に転職活動した方が早い。また転職活動におけるネットワーキングについても、海外での就職活動を除けば MBA はコスパが悪い
- 自身のレジュメやネットワークに自信がなく、現時点での転職活動が現実的ではないと考える場合、ミドルコスト・ミドルリターンの選択肢として MBA を検討すべき
起業系
国内編
まず国内起業の場合、働き方改革の影響などもあり、副業に対する姿勢も徐々に変わってきているし、スタートアップへの支援なども昔を比べ格段に増えている。会社を退職して起業しなくとも、まず副業や週末起業という形でサービスを立ち上げ、市場の反応をみながら投資家と話をすることが可能になってきていると感じるため、失敗の保険として MBA は高すぎると感じる。筆者はとりあえず留学資金を稼ぐために、自身が在籍していたチームと競合するコンサル会社を国内に設立したのだが、国内顧客との会議のために米国から日本へ出張しなければならず時間をとられて本末転倒になった。国内起業を目指すのであれば、まず週末にサービスを立ち上げられないか考え、自身の時間的な余裕や自信、そしてネットワークが足りないと感じた時に初めて国内の MBA を検討しよう。
海外編
次に、海外起業の場合、国にもよるがビザが問題になるケースが多い。筆者が居た米国では起業家向けのビザというものが存在せず、いかにビザを取得するかというのが最初のハードルだった。昨今は政権も変わり米国ではビザの取得が難しくなっているものの、MBA を卒業すると学生ビザを1年間延長できるため、在学期間を含めると約 2 年間半は米国に滞在することができる。この間にサービスを立ち上げ、売上を獲得することができればビザもクリアできない問題ではないため、ビザを心配せずに 2 年間海外での起業に集中できることを考えると、MBA は悪くない選択肢だった。
ただし、海外起業を考える上ではキャッシュが問題で、海外 MBA の場合そもそも 2,000 万円以上の費用がかかる上に、そこから更に起業資金を何とか調達しなければならない。筆者の場合は親族や金融機関から MBA 前に 3,000 万円借り入れ、会社を設立後に法人として 1,500 万円を借り入れたため、総額で 4,500 万円の借金となっており、卒業して 2 年経った現在も 4,300 万円ぐらい残高が残っている状態だ。筆者の経験上、慣れない海外で現金の不安が常につきまとうので、かなり辛い日々だった。上記のような経験を踏まえると、海外起業を本気で目指すのであれば、語学学校でもインターンでも何でも良いので、とにかく滞在する上でのビザ問題を安くクリアし、残りは事業資金に使うぐらいの覚悟を最初から決めた方が良いと、今振返って思う。
筆者結論:
- 国内起業、海外起業ともに筆者の経験上あまりオススメしない
- 国内起業は会社を退職せずとも、週末起業などを使って市場の反応を見たり、投資家と話したりするべき。MBA に行かずとも国内で起業準備はできる
- 海外起業は現金残高や卒業後のビザの不安が常につきまとう。海外での事業立ち上げを行うなら、最初から覚悟を決めて現金だけ持って現地へ飛び込んだ方が良い
その他
その他の動機については個別的事情があるため、筆者からコメントはしにくいのだが、「特定のやりたいことがある」&「キャリアに穴を空けたくない」というニーズがほとんどだと思う。当然、個別に諸々の事情があるものの、多くのケースにおいて MBA 以外の代替手段があるように思える。筆者の例で言えば Computer Science を勉強したければ国内大学院へ入学できれば、破格の費用で質の高い授業が受けられるし、場合によっては夜間のスクールなどもあり退職しなくても良いかもしれない。パートナーの転職・転勤についていくために自分も退職しなければならないケースを考えてみても、結局 MBA 後は就職活動をしなければならないので、パートナーと一緒に住めるかどうかは転職先に依る。
つまり、その他の理由については多くの場合副次的な理由で、基本的にはモラトリアムを満喫するか、キャリアアップ・キャリアチェンジのためか、起業を考えているかのどれかに属するというのが筆者の意見だ。逆にこれ以外の理由があるとすれば、純粋に経営学を学ぶという興味目的を除いて、MBA 以外の選択肢を選んだ方が良いのではと思う。繰り返しになるが、料理人になりたいなら MBA は止めておこう。
筆者結論:
- 基本はモラトリアム、キャリアアップor キャリアチェンジ、起業のいずれか
- その他の理由であれば、多分 MBA 以外の安くて適切な選択肢がある
MBAの本質的な価値
知識や卒業後のサラリーは本質的な価値ではない
経営学の知識を得たいだけなら、今では Web や書籍で似たような情報がいくらでもある。ググれば何でも調べられる時代になり、知識そのものの獲得コストがどんどん下がっている中で、これらを学ぶための MBA だとしたら授業料が高すぎる。何から学べば良いか分からない、という人は資格試験の勉強をすれば経営に必要な分野がある程度網羅されているので、まずは公認会計士や証券アナリストといった資格を取得することをオススメする。
また MBA の価値は、よく単純に MBA でかかった学費+生活費のコストと将来の給与上昇分を比較して、割に合う / 合わないといった議論を見かけるのが、これはあまりに単純化された議論だと思う。色々な所で指摘されている通り、サラリーの上昇や転職という側面のみに注目するなら MBA 以外の方法が数多くあるのだ。上記のキャリアチェンジでも述べた通り、自分が入りたい企業に大学時代の友人がいるなら、友人経由で希望部署の人に話を聞くこともできるし、知り合いがいなくともエージェント経由で何とか入社できるかもしれない。年収のアップについても、筆者の感覚ではベースサラリーの上昇には実績・実力が何より重要であるため、今のポジションで希望の経験を積めるなら目の前の仕事に注力すべきだ。
ネットワークが意味するもの
MBA の本質的な価値は、1 にも 2 にもネットワークだと筆者は考えている。ネットワークと言うと陳腐な言葉に聞こえるかもしれないが、「MBA の仲間」という言った方が正しいかもしれない。MBA 生活では多くの時間をクラスメイトと共に過ごすようカリキュラムが組まれており、グループワークやディスカッションを通した課題、サークル (クラブ) 活動、就職活動でのイベントなどを通して、否が応でも一緒に時間を過ごすことになるのだ。すると、同じような目的を持った同級生がどこかには居て、卒業後の人生や夢、家族について語り合うような仲にもなったりもする。MBA 卒業後には、こうした密な時間を過ごした仲間が、あらゆる業界の大企業やスタートアップに管理職として散らばることになる。MBA の本質的な価値は、卒業後には仲間である彼・彼女らにいつでも連絡することができることだ。
もし転職を考えているなら、今の職場環境や満足度はどうか、また空いているポジションがないか、フランクに会話することができる。MBA は管理職として採用されることも多いので、採用に関する権限や評価に係わっている人も多い。また、ビジネスにおいて繋がりがあることも少なくない。筆者はスタートアップとして金融機関向けのソフトウェアを販売しているということもあり、メインの顧客はコンサルティングと金融業界の実務担当になるのだが、これらの企業とコンタクトをする時はまず MBA の同級生に連絡することが多い。全く想定していないが、仮にこの先事業に失敗して転職活動をするとしても、真っ先に相談するのはやはり MBA の同級生だろう。つまり、MBA の本質的な価値とは、「同じような志を持った多くの仲間と深い信頼関係を築ける」ことだと筆者は考える。モラトリアムとしての意味もあるが、キャリア上の意味でも MBA の仲間と過ごした時間は生涯の財産だ。
まとめ
今回の記事では MBA ホルダーを4つのグループの分け、それぞれのグループごとに筆者の独断と偏見に基づいて MBA をオススメするかどうか考察した。結論として筆者が MBA をオススメするのは以下のような人達だ。
モラトリアム企業派遣
現在企業で勤務しているが、何となく刺激がないし、家族との時間もなかなか取れない。海外で生活したい等の願望があり、MBA を経て多少英語力やコミュニケーションノウハウを身に付ければ、社内での重要なポジションを任される可能性がある。転職意欲はそこまでなく、サラリーは高いに越したことはないが、どちらかというと家族との時間の方が大切。ゴルフやビールが好き。
本気の MBA 転職活動
現在 20 代中盤~後半だが、金融やコンサル業界、ファンド等に転職したい、または業界内で上位の会社やポジションに就きたい。現状自分がしたい仕事をするのは困難で、やりたい業務で実績も積むのが難しい状況のため、基本的に転職を考えている。しかし、行きたい会社や業界に仲が良い知り合いや友達もおらず、実力・レジュメ的にもすぐに転職することは難しい。
MBA を経た起業は、国内・海外を問わず筆者の経験上オススメしないが、ある程度経済的な不安がない人や、海外で安定したビザを持って事業立ち上げの検証をしたい人などには、選択肢の1つかもしれない。純粋に経営学に興味がある場合は、まず会計士や証券アナリストの資格を取得してみて知的欲求を満たせるかどうか試してみるのが良いと思う。
結局のところ、MBA とは「学校」であり、誰かと出会う場所なのだ。例えば、あなたが 4 年生大学の卒業生だったとして、仮に大学を卒業していなくとも、今現在の自分が似たような仕事で似たような給与をもらえていたなら、大学進学でかかった生活費やコストを後悔するだろうか?少なくとも筆者はそうは思わない。似たような仕事で似たような給与をもらっていたとしても、大学生活で得られた知識や経験以上に、大学で出会った友人や仲間がいて、今でも彼・彼女達に会って話を聞くことができる。筆者に至っては、結果的にサークルの先輩と結婚をしたため、大学に行っていなければ今も独身だったかもしれない。MBA 同級生の中にも、MBA (や受験活動) を通して結婚相手と出会ったという人も何人かいる。こうした「出会い」が MBA の本質的な価値であり、単なる資格獲得や転職活動と違うところだ。
この記事を読んでくれた皆さん全員が、楽しい MBA ライフを送れますように!