財務モデルにおけるアウトプット項目の決め方

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講座目次

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関連記事一覧

  • 財務モデル構築の際に、エクセルに取りかかる前に決めるべきこと
  • 時系列粒度の決め方 - 年次・半期・四半期・月次の判断ケーススタディ
  • 財務モデルにおけるセットアップテンプレートの使い方
  • ダッシュボード (Dashboard / Executive Summary) の作り方
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下記の記事でも述べたが、99%の場合、財務モデルのアウトプットは財務諸表だ。

しかし残念ながら、経験している限りほとんどのプロジェクトにおいて正しいアウトプットとしての財務諸表が作られていない。以下のケース Espresso Machineを参考に考えてみよう。

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Case - Espresso Machine

食品機材メーカーが新規事業として株式会社を設立し、カフェ・レストラン向けの業務用エスプレッソマシンの工場を新設し、販売するという事業を検討しています。あなたは事業部の企画担当として、財務モデルを用いたシミュレーション可能な将来事業計画を作成し、事業部長と財務部長を説得する必要があります。

エスプレッソマシン 1 つ当たりの原価として、 $500 の材料費・加工費、$800 の労務費がかかる見込みです。また販売責任者は、都市部と地方で異なる販売価格の設定を計画しています。都市部において初年度を $2,000 とし、次年度から価格を 4.0% 上昇させ、地方においては初年度を $2,500 とし次年度から価格を 2.5% ずつ上昇させる計画です。会社は初年度に 3,000 個のエスプレッソマシンの販売計画していますが、 1 年ごとに 500 個ずつ受注の増加を見込んでいます。都市部と地方における販売比率については、継続的に都市部 65%、地方 35% になると予想しています。

新設会社としては販売員を持たず、販売店に売上の 3% のマージンを支払うパートナーシップを契約しています。工場は、土地賃借料として毎年 $1,000,000、また稼動経費として $2,000,000 の固定費をかかる見込みです。工場以外の本社経費としては、新規事業責任者の給与が $90,000、販売を含めた管理部として $60,000の 5 人のスタッフを配置する予定です。工場の新設には 1 年かかり、$5,000,000 を前払いで支払う計画となっています。工場の稼動後は、修繕のため $200,000 を資本的支出として計上する予定となっています。

売上は販売店から売掛金として回収され、入金には 1 ヵ月かかり、部品の購入については、購入の 2 ヵ月後に支払うものとします。また、受注生産であるため、在庫は基本的に発生しないものとします。法人税は、実効税率で 35% とし、簡易的にその年の法人税を年度末に全て支払うものとします。減価償却については、20 年の定額償却とします。食品メーカーは、工場の新設にかかる $5,000,000 に加えて、運転資金として考慮する$1,000,000 合わせ、合計 $6,000,000 を資本金として拠出する予定です。会計年度については 1 月から 12 月までの 1 年とし、計画を実行する場合、2020 年から工場の建設を開始し、意思決定に稼動後 5 年の計画が必要であるとします。

  • Espresso Machine のケースPDFをダウンロード
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企業研修などで上記の Espresso Machine ケースからアウトプットとなる PL をトレーニングとして作成してもらうのだが、半分以上の人が下記のような項目を作成してしまう。

  • 売上高
  • 売上原価
  • 売上総利益
  • 販管費
  • 営業利益
  • その他営業費用
  • 税前利益
  • 法人税等
  • 税後利益

財務会計の知識がある人ほど、上記のような項目を作る傾向にあるが、一体何がダメなのだろうか?分からない人は、財務モデルの目的という部分に立ち返って、今一度考えて欲しい。財務モデルの目的は、意思決定のサポートだ。今回のケースは、事業部の企画担当として、事業部長と財務部長を説得することが目的だ。上記の PL は、事業部長や財務部長が、エスプレッソマシンの工場新設をするべきか否か、判断できるアウトプットになっているだろうか。下記に模範解答例を示すので、比べてみよう。

  • 都市部売上高
  • 地方部売上高
  • 総売上高
  • 販売手数料
  • 純売上高
  • 材料費・加工費
  • 労務費
  • 粗利益
  • 土地賃借料
  • 工場稼働経費
  • 本社人件費
  • EBITDA
  • 減価償却費
  • 支払利息
  • 税前利益
  • 法人税等
  • 税後利益

まず、

目的が変われば、当然作るべきモデルの内容は変わる

目的が変われば、当然作るべき財務モデルの内容は変わってくる。美容室が融資を受けるためのモデルであれば、すなわち銀行の融資担当者を説得するためのモデルだ。現在の事業収益性はどうか、融資資金によってどの程度の成長を見込むつもりかモデルを使って説明し、そして何より金利を支払った上で確実に借入金を返済できるという根拠を示す必要がある。商社が事業開発を行うのであれば、自社を説得するためのもモデルだ。投下する資金の規模、将来資金が何倍になって、また何年で返ってくるかなどといったリターンを中心とした数値を計算した上で、その事業へ資金を投下する価値があるということを計数的に示す必要がある。

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考察 - 財務モデルの本質は計算か?意思決定か?

当然財務モデルは計算ツールなので、諸々の項目について計算する。ただ、計算そのものが目的なら、そもそも単純な集計作業であって、財務モデル、つまりシミュレーション可能なツールとして構築する意義はあまりない気もする。財務モデルを使ってシミュレーションを構築するということは、計数そのものが変化する場合で、例えば会社を買収すること自体が既に確定していたとしても、「いくら」で買うかについては意思決定すべき項目だ。

逆の例を挙げると、意思決定が必要ない計算について、財務モデルが構築されることはあまりない。例えば、過去3年におけるA店舗の利益がいくらであったか、知りたいとする。何も意思決定するべきことはなく、ただ数値を知りたいだけだとすると、財務モデルを構築する必要はなく、単に集計作業を行えば良い。

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意思決定のために最終的に計算すべき数値(アウトプット)を決める

財務モデルのアウトプットは 99% 財務諸表

結論を先に言うと、財務モデルのアウトプットは 99% 財務諸表 (PL, BS, CF) だ。事業活動全体をとてもわかりやすく表現していて、意思決定のツールとして洗練されている(会計の基礎を気づいた先人達は凄い)。過去には財務諸表を必要としない案件も経験したが、割合としては 100 件に 2~3 件程度でプロジェクトとしても特殊なケースだったと思う。コミュニケーションのツールとして誰もが見慣れており、かつ会計との親和性もあって過去・将来の比較が簡単にできることから、財務モデルを構築する際には、ほぼ 100% 将来の財務諸表を計算することが一般的だ。

本当に財務諸表がアウトプットで良いのか、ここれは一度立ち止まって考えてみることにする。財務モデルを使用する目的、つまり何を意思決定すべきかが明確になれば、計数的に計算するべき項目が徐々に見えてくるはずだ。銀行の融資担当者を説得するためには、例えばどのような数値が見えていれば良いか。美容室が融資を受けるためのケースを例に、いくつかざっと項目を挙げてみる。

  • 融資総額 ... CF
  • 融資の使途内訳 ... CF + 補足情報
  • 融資条件(金利、返済期間、元本返済スケジュール) ... CF
  • 融資期間中の将来キャッシュフローと前提根拠 ... CF + 補足情報
  • 現時点および融資期間中の現預金残高 ... BS + CF
  • 売上が実績から X%下落しても返済計画に影響がないか PL + 補足情報
  • コストが実績から X%上昇しても返済計画に影響がないか PL + 補足情報
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ケースに応じて、当然上記の内容も変わってくると思うが、財務諸表を計算しておけば、上記を含むほとんどの質問に答えられることが分かる。融資総額や支払金利、元本返済のスケジュールなどは CF から説明できるし、現預金の残高や融資の途中残高などは BS から説明できる。売上やコストの過去実績、また将来計画については PL でカバーされる。立ち止まって考えると、財務諸表ってホント便利だよね。

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特定の項目のみシミュレーションしたい場合は、財務諸表がアウトプットにならないことも稀にある

ただし、一部例外として財務諸表がアウトプットにならない財務モデルを構築することもある。例を挙げると、費用を所与とした上で、税金の支払が最小となるような製品単価を逆算するモデルや、ストックオプションが行使された場合の株式価値の希薄化を計算するモデル、などなど。共通点としては、企業や事業全体ではなくビジネスの特定の項目をピンポイントでシミュレーションしたいケースにおいては、財務諸表は与えられた情報から計算できないか、または必要ない。逆に、融資や投資に係る意思決定、企業価値評価、事業全体に係る意思決定を行いたい場合は、財務諸表がアウトプットになることが多い。

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アウトプットの適切な時系列粒度を決める

時系列粒度とは

時系列粒度とは、要は計算が年次か、半期か、四半期か、月次かということだ。日次モデルや時間単位モデルも稀に存在するが投融資の意思決定というよりは、経験上、オペレーションの管理モデルに限られる。

  • 年次モデル
  • 半期モデル
  • 四半期モデル
  • 月次モデル
  • 日次モデル(レアケース)
  • 時間モデル(レアケース)

なぜこれらをエクセルに取り掛かる前に決めなければいけないかというと、時系列は粒度を粗くすることは簡単でも、細かくすることはほぼ不可能だから。平たく言えば、月次モデルを年次モデルとして集計することは簡単にできるけれど、年次モデルから月次モデルを計算することは、工夫すれば一部調整はできるが、かなり困難だ。

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月次モデルは細かいインプットや精緻な計算が必要

それなら、最初から全部細かい粒度、月次で作ればいいと考える人もいるかもしれない。しかし、月次モデルは年次モデルと比べて精緻であるが故に考慮すべき点も多い。例えば、東京都23区の場合、固定資産税の賦課期日は 1 月で、賦課決定日は4月。支払い期日は年によって異なるが、2017年の場合は 6月、10月、12月、翌年2月だった。決算月は計算する事業体によって違うし、決算月から半年後には法人税及び地方税の中間納付もある。売上や費用の入金・支払タイミングについても、月次モデルであればある程度正確に残高を把握して計算する必要がある。

さらに、アウトプットの粒度を月次にするということは、月次のインプットが必要だ。例えば、1 月から 12 月までの売上高を計算するためには、1 月から 12 月まで独立した売上単価と売上数量が必要となる。年間の値を 12 で割って入力値のみ無理やり月次にしているケースも過去実際に見かけたが、普通に考えて月次モデルである意味がないし、無駄に計算量が増えるだけだ。

粒度が粗いとモデルの前提条件がシンプルになり、計算量も減る。粒度を細かくすると、詳細な事業計画を作成できるが、入力前提も細かくしなければならないし、計算量も増える。時系列粒度を決定するためには、これらのトレードオフを見極める必要がある。

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意思決定に必要な粒度の見極めが重要

年次か、半期か、四半期か、月次かといった粒度については、プロジェクトごとにケースバイケースで、財務モデルの目的やスケジュールの密度、前提情報の粒度などに大きく左右される。しかし、最も重要なことは、「意思決定に必要な粒度」をしっかり考えることだ。プロジェクトとして連結取込利益をモデルとして計算する必要があるなら最低でも四半期の粒度で計算をしなければいけないし、半年ごとに元本返済がある融資計画を作成するなら、少なくとも半年ごとの CF は必要となる。予実管理のために毎月の現預金残高を計算して実績と比較したいなら月次の計算を構築しなければならないし、20年間の大まかな IRR を計算するだけで良いのなら年次の CF で十分だ。このようにケースバイケースではあるが、個人的な経験から粒度別にケースをまとめると、下記のような分類となる。

  • 年次モデル
    • 一般的な投資評価・融資評価モデル
    • LBO / MBOモデル
    • 事業計画期間が長期(5年以上)で、四半期や半期の前提値が入手不可なケース
  • 半期モデル
    • インフラやエネルギーにおけるプロジェクトファイナンスモデル
    • レンダーとモデルに開示をするケースで、元本返済や DSCR 判定が半期になっているケース
    • 配当や納税が半期ごとに発生し、それらを正確に計算したいケース
  • 四半期モデル
    • インフラやエネルギーにおけるプロジェクトファイナンスモデル
    • レンダーとモデルに開示をするケースで、元本返済や DSCR 判定が四半期になっているケース
    • 親会社が四半期決算を行っており、持分投資損益や取込利益を正確に計算したいケース
  • 月次モデル
    • 太陽光発電事業の投資評価・融資評価モデル
    • 予実管理モデル
    • オペレーション管理モデル
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考察 - 粒度の粗い(年次)モデルから細かい(月次)モデルへの変換は本当に困難か?

追記予定

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